1.「実家」を未来へつなぐことが、私の仕事です

 

「実家を相続する前に準備しておくことは何ですか?」
この問いに、自信を持って答えられる方は意外と多くありません。

 

私は現在、不動産会社で相続・終活・空き家に関する相談窓口を運営し、縁ディングノートプランナーとして、毎月開催する終活講座や「実家のしまい方」を考える伴走型セミナーを通して、多くのご家族と関わっています。

 

私たちが取り組んでいるのは、単に不動産を売る仕事ではありません。

 

家族の思い出が詰まった「実家」を、これからどう守り、どう引き継ぎ、どのような未来につないでいくのか。その答えをご本人、ご家族、そして専門家が一緒になって考えることを大切にしています。
実家には、その家族だけの歴史があります。子どもが成長した部屋。
家族で囲んだ食卓。
何気ない日常の思い出。
だからこそ、「もう住まないから売ればいい」という単純な話ではありません。
私は、その想いを大切にしながら、「空き家より笑顔を遺す」お手伝いをしたいという想いで、この仕事を続けています。

 

 

2.母が教えてくれた「話しておけばよかった」という後悔

 

しかし、私がこの仕事を志したきっかけは、母との別れでした。
ある日、体調を崩した母に病院への受診を勧めたところ、そのまま緊急入院となりました。
入院から一週間ほどで、母は思うように話すことができなくなりました。

 

「これからどうしてほしい?」
「何か伝えたいことはある?」

 

何度問いかけても、返ってくるのは小さくうなずく姿や首を振るしぐさだけでした。
そして、入院からわずか三週間後、母は旅立ちました。

 

母は最後に何を伝えたかったのだろう。どんな想いを抱いていたのだろう。
その答えを聞くことは、もうできません。

 

「もっと早く話しておけばよかった。」
この後悔は、今でも私の心の中に残っています。
もし当時、相続や終活について学び、家族で話し合う機会を持っていたなら、母の想いをもっと受け止めることができたかもしれません。
この経験が、私の人生を大きく変えました。
現在、一人暮らしをしている父とは、万が一に備えた話し合いを少しずつ重ねています。家族が元気なうちに話し合えることの大切さを、私は母から教えてもらいました。

 

 

3.「争族」は財産ではなく、想いのすれ違いから始まる

 

母との別れをきっかけに、私は相続や終活について一から学び始めました。
その中で特に感じたのは、不動産相続の難しさです。
預貯金であれば金額を分けることはできますが、実家はそうはいきません。
「誰が住むのか。」
「売るのか。」
「残すのか。」
そこには、それぞれの立場や想いがあります。
さらに、相続が始まると、悲しみの中でも期限に追われ、多くの手続きを進めなければなりません。だからこそ、生前に「家族の想い」を共有しておくことが何より大切なのです。
相続で揉める原因は、お金だけではありません。
「お父さんは本当はどう思っていたの?」
「お母さんは何を望んでいたの?」

 

その答えが分からないことが、家族のすれ違いを生み、「争族」へと発展してしまうことがあります。私は、そんな家族を一組でも減らしたいという想いで活動しています。

 

4.縁ディングノートは「家族会議」を始めるための一冊

 

そのために私が最も大切にしているのが、「縁ディングノート」です。
「エンディングノートには法的効力がない。」そう言われることがあります。
確かに、遺言書のような法的な効力はありません。
しかし、私にとって縁ディングノートは、それ以上の価値を持っています。

 

私は縁ディングノートを、「家族会議を始めるきっかけ」だと考えています。

 

どんな最期を迎えたいのか。
医療や介護についてどう考えているのか。実家はどうしてほしいのか。
そして、なぜその想いに至ったのか。

 

その背景まで家族に伝えられることが、縁ディングノートの大きな魅力です。
書くことが目的ではありません。
家族と話し合い、お互いの想いを知り、未来への準備を始めることこそ、本当の目的だと考えています。だから私は講座でも、「まず書きましょう」ではなく、「まず話してみましょう」とお伝えしています。

 

 

5.未来へつなぐのは「財産」ではなく「家族の想い」

 

私は、縁ディングノートを書いて終わりではなく、ご本人、ご家族、そして税理士・司法書士・行政書士・ FP・不動産会社など、それぞれの専門家が一緒になって、「家族の想いを未来へつなぐ」伴走者でありたいと思っています。

 

終活は、人生の終わりを考えることではありません。
これからを安心して、自分らしく生きるための準備です。
そして、その準備は、自分自身だけでなく、大切な家族への贈り物にもなります。

 

最後に、皆さんへ一つ質問です。

 

「もし今日、家族と話す時間があるとしたら、あなたは何を伝えますか。」
その一歩が、未来の後悔を安心へと変え、家族の笑顔を守ることにつながります。縁ディングノートをきっかけに、家族で語り合う時間をつくってみませんか。
「空き家より 笑顔を遺す 終いの道」
この想いを胸に、これからも一人でも多くのご家族に寄り添いながら、家族の未来をつなぐお手伝いを続けていきたいと思います。