1 我が家のレシピ
縁ディングノートを書く中で、私が特に好きなページがあります。それが「我が家のレシピ」です。財産や連絡先とは違い、そこには数字では測れない、その家ならではの記憶が詰まっているからです。我が家の場合、父が生前「母の味」として語っていたのは、中華では「タブチラーメン」と「餃子」、洋食では「煮込みハンバーグ」と「コーンスープ」でした。煮魚やおいもの煮っころがしではないんですよね。中でもタブチラーメンは、私たち家族にとって特別な一品です。
父は私が学生の頃、会社が海外進出をするため、何年もの間、アメリカのインディアナ州と日本を行ったり来たりの生活をしていました。もちろん日本食もあまりない時代のアメリカです。日本の味(母の味)が恋しくて、近所の中華店で、身振り手振りで説明しながら、このラーメンを作ってもらっていたそうです。その時に名付けられたのがタブチさんのリクエストで出来上がった「タブチラーメン」。父が亡くなった今では場所はもう分からないけれど、いつかその味を求めてインディアナに行ってみたい、そんな思いがふと湧いてきます。父は余命宣告を受けてからも、このラーメンをリクエストし、母がホスピスに持って行っていました。それほどまでに、体にも心にも染みついた味だったのでしょう。
2 主人にとっての私の味
主人に「我が家のレシピって何だと思う?」と聞いたとき、迷わず返ってきた答えも「タブチラーメン」でした。生めんに、白菜、にんじん、豚バラ、もやし、メンマ。煮干しだしと醤油で煮込み、青ねぎをたっぷりのせる。出汁も具も一緒に食べる、実にシンプルなラーメンです。そして縁ディングノートを書く際に母に聞いたところ、この味は、もともと祖母が作ってくれていたものだと知りました。親子三代にわたって受け継がれてきた味。当たり前に食べてきた一杯が、実はご縁を静かにつないでくれていたのだと思うと、胸があたたかくなります。
3 我が家のレシピは想いがスパイス
縁ディングノートの「我が家のレシピ」は、未来に残すメモであると同時に、過去と今を結び直すページです。味の記憶は、人の記憶よりも深く、確かに心に残ります。そう思いながら、今日も私は、あのタブチラーメンの湯気を思い出しています。