――障害のある子を育てる親が、“その先”を見つめた日
「この子は、私がいなくなったら、どうなるんだろう」
ある日、そう呟いたお母さんがいました。
小学3年生の男の子を育てていて、彼には軽度の知的障害と発達の特性があります。
日々の暮らしはにぎやかで、笑顔もいっぱい。
だけど、支援学校の進路説明会で「将来のこと」「親なきあと」という言葉を耳にしたとき、ふと胸がざわついたのだそうです。
「私が全部知っているこの子のこと、他の誰が分かってくれるだろう?」
好きな食べ物、苦手な音、急に不安になったときの対処法、いつも笑顔でいるためのちょっとしたコツ。
それは親だからこそ知っている「生きるレシピ」。
そのお母さんは、ノートを1冊買いました。
けれどタイトルを書くとき、手が止まりました。
「エンディングノート」――その言葉がどうしても寂しく感じたのだそうです。
「終わり」じゃなくて、「つなぐ」ために書くのに。
そして、お母さんにノートの表紙に書いてもらったのが、
『縁ディングノート』。
「縁」には、人と人をつなぐ力がある。
「このノートを通して、我が子がいろんな人と“いいご縁”をつなぎながら、安心して生きていけますように」
そんな願いが込められています。
縁ディングノートに書いた、小さな“道しるべ”
「縁ディングノート」は、決して難しいものではありません。
たとえば、こんなふうに書き始めてみるのもいいのです。
- 毎日飲んでいるお薬の名前
- お気に入りのキャラクター(朝の支度がスムーズになる魔法)
- 眠る前に読みたがる絵本のタイトル
- 苦手な言葉と、そのときのフォローの仕方
- 緊張するとき、耳をふさいで深呼吸すると落ち着く…など
書きながら、お母さんは少しずつ、心が軽くなっていくのを感じたと話してくれました。
「今まで“私しかわからないこと”が多すぎて怖かったけど、書き出したら“伝えられること”がこんなにあるんだって思えたんです」と。
縁ディングノートは「未来につながる贈り物」
縁ディングノートは、法的な書類ではありません。
でも、書いておくことで、周りの人が「何を大切にしていたか」「どう接していけばいいのか」を知る手がかりになります。
必要があれば、専門家の力も借りながら、
- 誰にどんな形でサポートをお願いするか
- 財産や生活費のこと
- 成年後見などの備え方
…といった“制度的な土台”を考えていくことも大切です。
でも、そのベースにあるのは、やっぱり「親としての想い」。
縁ディングノートは、それを優しく言葉にして残す場所です。
「書いてよかった」と、きっと思える日が来る
未 来 の こ と を 考 え る の は 、 正 直 ち ょ っ と 怖 い 。
でも、書くことは「愛情の延長線上」です。
大切な人と、これから出会う人たちへ。
「この子をよろしくね」と、そっと手渡せる“ご縁のノート”。
それが、縁ディングノートなのです。
(文責 理事 上木拓郎)