こんにちは。縁ディングノートプランナーの斉藤 愛です。
私は20年以上、救命救急の看護師として働いてきました。救命救急の現場では、意識がないまま運ばれてくる患者様も多く、人生の最後の時間をご家族が「どうするべきか」を決断しなければならない場面にも立ち会ってきました。

 

そのたびに痛感するのは、「本人の意思がわからないこと」が家族にとってどれほどつらいことなのかということです。
「これでよかったのか」「本当は違う選択を望んでいたのではないか」――そんな葛藤や後悔を抱えるご家族も少なくありません。
だからこそ、元気なうちに「自分の想い」を大切な人に伝えておくことが大切だと、私は強く思っています。

 

今日は、私が縁ディングノートを伝える仕事を始めるきっかけとなった、ある患者様のエピソードをご紹介したいと思います。

30代前半、がんと闘うAさんとの出会い

Aさんは30代前半の女性。がんの診断を受け、抗がん剤治療を続けていましたが、効果は思うように現れず、進行が早く、末期の状態になってしまいました。
余命宣告(3ヶ月)を受け、精神的にも不安定となり、心も体も追い詰められていきました。

 

実はAさんには婚約者がいました。ですが、「会いたくない」と面会を拒否していたのです。理由を尋ねると、Aさんは涙ながらにこう話してくれました。

 

「嫌いになったわけじゃないんです。弱っていく姿を見せたくない。一緒にいたら、私がいなくなった時に悲しませてしまう。それがつらくて…。でも本当は、すごく怖いし、そばにいてほしいのが本音。」

 

心の中では「一緒にいてほしい」と願いながらも、大切な人を傷つけたくないという気持ちが勝っていたのです。

「最後にやりたいこと」の願い

Aさんと「残りの人生で何をしたい?」という話をした時、彼女はこう答えました。

 

「おいしいものを思いっきり食べたい」
「ディズニーランドに行きたい」
「彼と結婚したかった。ウエディングドレスを着たかった」
「本当はかわいい子どもを産むのが夢だった…」

 

その言葉を聞いて、私たち看護師は「何とかして叶えてあげたい」と強く思いました。

 

夢を叶えるために…チームで動き出した日々

まずは、「おいしいものを食べたい」という願いを叶えるため、ご家族に好きな食事を少しずつ持ってきてもらいました。食欲が落ちていたAさんでしたが、家族と一緒に食卓を囲むことで、少しずつ食べられるようになりました。

 

「ディズニーランドへ行く」という夢は、体調的に難しく叶えられませんでした。ですが、どうしても叶えたいと私たちが思ったのは「彼と結婚したい」「ウエディングドレスを着たい」という最後の願いでした。

 

医療チーム、看護師、医師、病院長も含め何度も話し合い、**「病院内で結婚式をしよう」**という結論に至りました。

 

病院内の結婚式~命のタイムリミットと闘いながら

Aさんの体は日に日に衰弱し、腹水が溜まりお腹も大きくなっていました。そのため、マタニティ用のウエディングドレスを探し、ようやく準備が整った頃には、余命1ヶ月を切っていました。

 

看護師が昼休憩を使って集まり、スタッフ総出でサプライズの結婚式を企画。彼やご両親も一緒に、病院内でささやかながら心温まる式を開きました。

 

衰弱していたAさんでしたが、ウエディングドレスを着たときは満面の笑み。
「本当にありがとう」と、何度も何度も言ってくれました。あの日の笑顔は今でも忘れられません。

 

旅立ちと、家族の言葉

結婚式の2日後。Aさんは、ご両親と愛する彼に見守られながら静かに旅立ちました。
その時、ご両親が私たちに伝えてくれた言葉――

 

「子どもに先立たれるのは本当に辛い。でも、あの子の願いを叶えてもらえたから、幸せだったと思います。私たちも後悔はありません。」

 

この言葉が、今も私の胸に深く刻まれています。

 

「自分の想い」を伝えることの大切さ

Aさんのように、「本当はどうしたいのか」を話せずに最期を迎える方も少なくありません。だからこそ、元気なうちに「自分の意思」を大切な人に伝えておくことが、家族にとっても本人にとっても、後悔のない選択につながると、私は心から思います。

 

「縁ディングノート」は、そのための大切なツールです。
これからも私は、縁ディングノートを通して、一人でも多くの人が「自分の人生をどう生きたいか」を考え、大切な人と想いをつなげるお手伝いをしていきたいと思います。

 

最後に

人生の最期は、誰にでも訪れるものです。だからこそ、「もしも」のときに後悔しないように――。
あなたも、ぜひ縁ディングノートを通して「大切な人に伝えたいこと」を考えてみてください。

 

きっと、今を大切に生きるための一歩になるはずです。

 

斉藤 愛(縁ディングノートプランナー/看護師)